リーマン・ショックという金融危機に端を発する先進国全体に経済停滞と10年以上におよぶ長期的な低成長の日本経済にあって、アベノミクスのうち大胆な金融緩和策、積極的な財政政策が遂行され、さらには成長戦略という3つ目の政策が計画されるのに相まって若干の経済回復の兆しが起きつつあるが、依然として経済の先行きは見通せず、所得格差や雇用問題は解消せず、きたる高齢化社会にむけて、金融政策、財政政策、投資促進政策等の景気回復策と成長戦略のあり方が問われてきている。本研究の目的は、ITという情報通信技術やコンピューターといった近年の新技術が短期的な景気の動向を左右する企業の投資政策や財政、金融政策を通じて日本経済の変動局面にいかなる影響を及ぼし、また長期的には技術進歩や経済成長を通じて趨勢的には雇用や所得格差にいかなる影響を及ぼすか等を理論的、実証的に分析し、政策手段を考察することにある。
本研究では、特に、新技術は需要面では投資を促進する要因となり得るか、財政、金融政策の有効性は新技術の浸透によって変わって行くのか、また、経済の供給面では新技術は生産性を増大させる成長要因となるかについて分析を進める。さらには、新技術中熟練の雇用を減らし高賃金高雇用と低賃金低雇用という二極化を生み出すおそれがアメリカを中心に指摘されているが日本ではどのようであるか、また、情報通信技術といった新技術が経営者を中心に勝者一人勝ちを生み出し資本所得の相対的上昇という古典的な不平等が生じつつあるのではないかという分析が欧米を通じてなされてきているが日本ではどのようか、そのようなことも視野に入れて分析を進め、新知見を提示する。政策的にも今後の成長や格差是正策を提示できうる点で意義あるものと確信する。